キーワード解説「し」

これまでの日本語教育能力検定試験に出題されたキーワードを、随時解説していきます。知識の補完・整理にご活用ください。

使役文(しえきぶん)

使役文(しえきぶん)

ヴォイス(態)の一種。動詞の使役(形)(例:「書く」→「書かせる」、「食べる」→「食べさせる」)を用いながら、主語が第三者に対してある事態が起こるように仕向けることを表した文。

動詞の使役(形)の作り方は、以下の通りです。長形と短形があるので、注意が必要です。

  ルール
五段動詞

(1グループ)
 「-u」→「-aseru」(長形)

  例:「書く(kak-u)」→「書かせる(kak-aseru)」
 「-u」→「-asu」(短形)

 例:「書く(kak-u)」→「書かす(kak-asu)」
 一段動詞

(2グループ)
 「-ru」→「-saseru」(長形)

 例:「食べる(tabe-ru)」→「食べさせる(tabe-saseru)」
 「-ru」→「-sasu」(短形)

 例:「食べる(tabe-ru)」→「食べさす(tabe-sasu)」
不規則動詞

(3グループ)
 「する」→「させる」(長形)、「さす」(短形)
 「来る」→「来させる」(長形)、「来さす」(短形)

ここで問題になってくるのが、例えば「寝かす」は使役(形)か他動詞か、という問題です。答を先に言えばこれは他動詞です。

仮に使役(形)として、上の活用ルールに則って辞書形を作ってみてください。「寝かす(nek-asu)」→「寝く(nek-u)」と妙な動詞になってしまいますね。このことから他動詞であることが分かります。

また、この使役文は、構文上、させられた人や動物等を格助詞「に」で表すか「を」で表すかによって、「ニ使役文」と「ヲ使役文」という2つのタイプに分けることができます。下の例を見てください。

(1) 太郎が泳ぐ。(自動詞文)
(2a)父は太郎に泳がせる。(ニ使役文)
(2b)父は太郎を泳がせる。(ヲ使役文)
(3) 太郎が本を読む。(他動詞文)
(4) 父は太郎に本を読ませる。(ニ使役文)

能動文が自動詞文の場合、(2a)(2b)のように、ニ使役文、ヲ使役文のどちらで文を作っても構いません。また、意味用法も特に大きな違いはありません。

一方、能動文が他動詞文の場合、(4)のようにニ使役文でしか文を作ることができません。すでに「を」(「本を」)が使われているからです。

さらに、この使役文で注意すべきことは、その意味用法のバリエーションの多さです。例えば、グループジャマシイ編(1998)『教師と学習者のための日本語文型辞典』くろしお出版(p.129)では、以下の8例が紹介されています。

(5)強制:例)犯人は銀行員に現金を用意させた。
(6)指示:例)社長は秘書にタイプを打たせた。
(7)放任:例)疲れているようだったので、そのまま眠らせておいた。
(8)許可:例)社長は給料を前借りさせてくれた。
(9)放置:例)風呂の水をあふれさせるな。
(10)介護:例)子供にミルクを飲ませる時間です。
(11)自責:例)子どもを事故で死なせてしまった。
(12)原因:例)フロンガスが地球を温暖化させている。

(5)や(8)は初級の教科書でもよく扱われている用法ですが、それ以外の用法については、本文の中に出てきてもちゃんと説明している教科書はあまりないのが現状です。中級以上の学習者に対する指導の際には注意が必要です。


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