外国人児童生徒はなぜ「様子」が理解できないのか。

去る8月28日に開催した

篠研企画 臼井智美セミナー
「日本語指導が必要な児童生徒に対する日本語教育
-小中高で指導する前に知っておくと助かること-」

より(続き)。

外国人児童生徒にとって習得が困難なのは、
BICSより、むしろCALP。

考えてみれば当然で、CALPの方がBICSよりも
より抽象的思考が求められ、

しかも、日常生活とは切り離されたものを
扱い、

しかも、学校生活を送る限りずっとついて回る
もの。

超長期のサポートが必要なのです。

ところで、

外国人児童生徒はCALPのどんなところが
習得困難だと思いますか。

「そりゃもちろん、二次方程式とか
食物連鎖とか、科目特有の専門用語
でしょ?」

たしかにそういう言葉も初めて触れる
わけですから、難しいといったら難しい。

でも、それは外国人児童生徒に限った
ことではありません。

日本人児童も同じです。

外国人児童生徒が特につまづいてしまう
のは、実はそういうところではないので
す。

彼らが困難を感じるのは、

「日常生活でも、どの教科でも普通に
使われている、ごくありきたりな言葉。」

なのです。

例えば、「様子」とか「中心」とか「取る」
とか「働く」とかです。

「えっ!どうして?」

そう思われるかもしれません。

なぜなら、こうした言葉は、使われるシーン
や教科によって、意味や求められるものが
変わるからです。

例えば、「様子」。

例えば、先生から

「○○の様子を書いてください。」

と言われたら、どうしますか。

「別に○○の様子を書けばいいんじゃないの?」

そう思われるかもしれません。

では、国語の時間に『大造じいさんとガン』を
読んだ後、先生が、

「はい、じゃあ、皆さん、大造じいさんの様子
を書いてください。」

と言ったしたら、どうでしょう。

外国人児童生徒(かりにマリアちゃんとしま
しょう)は、こう書くかもしれないのです。

「だいぞうじいさん。

しんちょう163センチ。たいじゅう58キロ。
仕事の時はみのとかさを着ている。

目はギラギラしていて、顔は黒く、
左目の下にほくろがある。」

これを見た先生は、何と言うでしょう。

「いやいや、マリアちゃん。

そういうこと聞いてんじゃないのよ。

指名手配の犯人の似顔絵作ってんじゃないん
だから(笑)

今は、国語の時間だから、例えば、

『大造じいさんは、寂しそうだった』とか、
『大造じいさんは、心配そうな顔をしていた。』
とか、

そういうことを書いてほしいの。

目の下のほくろとか、そういうのはいらない
のよ。」

となるでしょう。

そこで、マリアちゃんは、

「なるほど。『○○の様子を書きなさい』と
言われたら、『寂しい』とか『心配そう』とか、
なんか心の様子を書けばいいんだな。」

そう学習するわけですね。

そして、今度は理科の時間。

先生が、校庭の隅のひまわり畑に子供たちを
連れていって、

「はい、じゃあ、皆さん、ひまわりの様子を
書いてください。」

と言う。

そこで、マリアちゃんは、国語の時間を
思い出して、

「そうだ、心の様子を書こう。」

と思って、

「くも1つない気持ちのいい青空。
ぎらぎらとかがやく太陽の下で、
ひまわりが誇らしげに咲いている。

そんなひまわりを見ていると、
私の悩みなんて、なんて小さいのかと
思ってしまう。

ひまわりに悩みなんてないのだろうか。」

みたいな文を書いてしまうわけです。

これを見た先生は、何と言うでしょう。

「いやいや、マリアちゃん。

そういうこと聞いてんじゃないのよ。

そういうポエティックな文はいらないの。

今は、観察日記を書く時間だから、例えば、

『ひまわりの身長は何センチで、昨日より
何センチ伸びた』とか、

『葉っぱの色はこんな色で、しおれている
から水をあげた方がいいんじゃないか。』
とか、

そういうことを書いてほしいわけ。

『悩みなんてないのだろうか。』なんて
逆質問されても困るのよ。」

となるでしょう。

そこで、マリアちゃんは混乱するわけです。

「どうして同じように『○○の様子を書きなさい。』
と言われているだけなのに、

大造じいさんの身長を書いたら注意されて、
ひまわりの身長を書かなかった注意されるのか。

どうして、大造じいさんの顔の色を書いたら
注意されて、
ひまわりの葉っぱの色を書かなかったら
注意されるのか。

意味わかんない。」

となるのです。

お分かりいただけましたでしょうか。

つまり、「様子」という言葉は、教科によって
求められているものが違うのです。

ですが、それを10歳かそこらのマリアちゃんが
分かるはずもなく、

教師の方も、まさかそんなありふれた言葉が
彼らの理解のネックになっているなど知る由
もなく、

考えた末、この教師は、

「もしかしたら、マリアちゃんは発達障害なの
かもしれない。」

といって、支援学級に入れようとするわけです。

おかしいの、わかります?

もちろん、中には本当に発達障害のお子さんが
いるかもしれません。

これは、日本人児童も同じこと。

もし本当にそうなら、発達障害の持った児童
向けの対応をすれば、問題は解決するはず。

でも、もしそうした対応をしても問題が解決
しないとしたら、そのお子さんは発達障害
ではなく、

別の問題を抱えていると考えるべきなのです。

いかがでしょうか。

こういう現場の背景を理解しながら検定試験
対策としてBICSとCALPの勉強をするのと、

ただ、参考書にある、問題を解くためだけの
必要最低限の説明を読んで勉強するのと、

どちらが試験対策に有効で(知識の歩留まり
がよくて)

どちらが現場に立ったときに役に立つか。

だから、私は検定対策セミナーの問題解説の
端々で、

その問題に関連した現場の情報を、臨場感を
もってお伝えしているのです。


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