実はおもしろい検定試験(意固地か気骨稜稜か)
今回は、おもしろいというより
「どうなんだろうなぁ。」
と考えさせられた問題を紹介します。
平成23年試験I問題5より。
以下。
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問題5
(問題文中略)
また、学習者個人の学びに関しては、従来の枠組み
に捉われず、学習者が自ら学びを構築していくこと
D
も取り入れられている。
問4 文章中の下線部D「学習者が自ら学びを構築
していくこと」を何というか、最も適当なもの
を、次の1~4の中から一つ選べ。
1 学習者オートノミー
2 学習者エンパワーメント
3 セルフ・アクセス
4 グループ・ダイナミクス
問5 文章中の下線部D「学習者が自ら学びを構築
していくこと」を成功させるための学習ストラ
テジーとして不適当なものを、次の1~4の中
から一つ選べ。
1 現在の自分自身の学習状況をモニターして、
評価、検討すること
2 他者の意見に影響されず、自分の信念を貫
いて学習すること
3 自分の学習の到達点を明確に捉え、イメー
ジ化すること
4 学習に対する自分の不安感情を意識化し、
コントロールすること
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いかがでしょうか。
この問題、1つの下線部に2つも問題がついて
いる点が、まずもって珍しい。
それはさておき。
問4の答えは1、問5の答えは2。
問4は、いわば学習者オートノミーの定義の
問題ですので、特に問題なし。
逆に、検定試験では専門用語の定義を問う問題
が結構多いので、
『日本語教育能力検定試験 キーワード
一問一答 2022年度版』
https://www.kanjifumi.jp/ichimonitto/
で、しっかり確認しておいてくださいね(^_^)v
で、篠崎的に引っかかるのは問5。
これって、そう言い切れますでしょうか。
結果次第ではないかなぁと。
つまり、結果がよければ気骨稜稜(きこつ
りょうりょう)、初志貫徹。
「さすが、最後までやりきった結果。
すごい!」
となりますが、
結果が出なければ、
「だから言わんこっちゃない。意固地なん
だよ。」
と非難轟轟(ひなんごうごう)。
おそらく、この問題は後者を想定しての
ことだと思われますが、
現実世界では、どちらもありうるし、実際
どちらもあると思います。
例えば、私が大学で担当している留学生で、
去年、JLPTのN1に合格した女子学生がいま
す。
彼女の勉強方法があまりにも特異で、
確かに私のN1対策の授業も受けてはいたの
ですが、
文字・語彙・文法・読解力は、自分の好き
な小説(単行本)を読んで身につけ、
聴解力は、大ファンのドラマ「半沢直樹」
を見て力をつけた。
下記がそのインタビューです。
【2021年7月合格!】
私はこうして日本語能力試験N1に合格した!
-蒋官※(ショウカンコウ)さん
https://youtu.be/QJVXbR10Uj0
※女偏に「交」。
もし、私が受験前にこのことを知っていたら、
さすがに止めないにしても、
「そんな勉強方法で大丈夫?
問題集をやったほうがいいんじゃない?」
と言っていたかもしれません。
ですが、もし本当に私がそう言って、彼女の
学習方法に変な影響を与えてしまったら、
彼女はN1に合格できなかったかもしれないの
です。
そもそも、他者の意見など、どこまで行って
も賛否両論。
そして、人は自分と違うやり方に対しては
基本的に批判的にになるもの。
なぜなら、人は常に「自分は正しい。」と
思いたいから。
それでいて、批判した相手が成功すると、
「俺は、あいつなら絶対成功すると思って
たよ。」
と、得意満面に言うと(笑)
そんな周囲の雑音に一喜一憂していたら、
いつまでたっても学習スタイルが固まらず、
ただただ振り回されて終わりです。
かの兼好法師も
「一事を必ずなさんと思わば、他の事の
破るるをもいたむべからず。
人の嘲りをも恥ずべからず。
万事に換えずしては、一の大事成る
べからず。」
-徒然草 第百八十八段
と言っていますが、まさしくその通り。
他人の意見に耳を傾ければいいという
ものでもないのです。
このように言うと、
「そんなことを言って、学習者が教師の
言うことを聞かなくなったらどうする
のか。」
という方がいますが、
私は、それは教師のエゴだと考えます。
確かに、師の言うとおりにした方が成功の
確率は格段に高いでしょう。
とはいえ、100%ではありません。
また、学習者にも自分の学習方法を選ぶ
権利があります。
よしんば、それで失敗したとしても、
それはその学習者にとって必要な人生経験
だったんだと、私なら解釈します。
失敗から学ぶことも多いですし、
人生、いくらでもやり直しがきくので。
このように考えると、
「他者の意見を聞こうが聞くまいが自由。
そして、結果は自己責任。」
これが学習者オートノミーの本質ではない
かと思います。
学習者の人生の主人公はあくまでもその
学習者であり、
彼らの人生の主導権を奪う権利は、誰にも
ないので。
と私は思いますが、皆さんはいかがでしょうか。