学習者は「足下」の意味をどう推測したか。
学習者は、知らない語彙に遭遇した時、
実に様々な推測を働かせて意味を
理解しようとします。
学習ストラテジーでいうところの
補償ストラテジーというものですね。
ですので、私たち教師の方も、そうした
学習者の学びのプロセスを理解する
ことは、
より良い指導に結び付けていくうえで
非常に有効です。
そこで、今回は、
以下、通信講座の講義資料
「No.078 予測・推測能力」
から、学習者の「語からの推測」の例を
ご紹介します。
「なるほど。学習者はこうやって知識の
不足分を補っているのか。すごい。」
そう感じていただければ。
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語からの推測
「語からの推測」とは、
「わからない語句の意味を、文の中でその語
と強く結びついている自分が知っている語の
意味から推測すること」(野田(2022)p.63)
です。
野田(2022)は、「足下及び今後の貿易収支動
向」という文言の「足下」の意味を「現在」と
適切に推測した、
韓国語を母語とする中級レベルの日本語学習者
の例を(12)のように紹介しています。
(12)この学習者は、この文脈では「足下」の
意味が「足の下」ではないと思い、辞書
で調べたが、わからなかった。そこで、
「足下」の後にある「今後」との対比で 、
「足下」の意味を「現在」ではないかと
推測した。(p.62)
未知語があった場合、この例のように前後に結
びつきが強い、理解のヒントになる語があれば、
それを手掛かりに語の意味をより適切に推測す
ることができます。
これにより、辞書に頼らずに読解や聴解を進め
る自律的な学習に繋げることができます。
従って、意味が分からない語に対しては、前後
に結びつきの強い語がないか探させる。
そして、あればそれを手掛かりに意味を推測す
るように促すことは、有効な指導の1つと言え
ます。
参考文献
野田尚史(2022)「日本語教育学とは何か(5)日本
語学習者の読解における推測」日本大学
国文学会『The journal of Japanese
language and literature」172 pp.64-61
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いかがでしょうか。
「足下」なんて、私たち日本人にとっても
そんなになじみのある言葉ではないと思い
ますが、
その言葉の意味を、学習者は見事に推測し、
意味を言い当てています。
であれば、このストラテジーを指導に活か
さない手はありません。
「意味が分からない語に対しては、前後
に結びつきの強い語がないか探させる。
そして、あればそれを手掛かりに意味を
推測するよう促す」
非常に有効な指導スキルだと思います。