文法の知識が読解時の推論に役立った初級学習者の例。

日本語教育の現場では、初級から上級まで
文法の学習に結構な時間を割きます。

やはり、文法(=分の骨組み)がわから
なければ、正しく文の意味を理解する
ことはできませんから。

一方で、学習者が日本語を理解したり、
書いたり話したりする際には、

どうしても実質語(名詞や動詞といった
自立語)に注意が引っ張られ、

機能語(助詞や助動詞といった付属語)
への注意がおろそかになりがち。

それは、例えば私たちが英語を話す
時、

うっかり3単元のsを忘れてしまう
のと同じようなものです。

ですが、文法の知識が読解時の推論
役立ったという事例があります。

注目すべきは、教師からの働きかけ
ではなく、

学習者自ら文法の知識を使って
正しく推論したということ。

まさに理想的な形ですね(^_^)

そこで、今回は、

以下、通信講座の講義資料

「No.078 予測・推測能力」

から、学習者の「文法からの推測」の
事例をご紹介します。

「この学習者もなかなかやるな。」

そう感じていただければ。

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文法からの推測

「文法からの推測」とは、

「語句や文の意味を文法的な形から推測
 すること」(野田(2022)p.62)

です。

野田(2022)は、(13)の文章を読んで
「テニスを選んだ」のは「親」ではなく、
この文章の筆者であると適切に推論した、

フランス語を母語とする初級レベルの日本語
学習者の例を(14)のように紹介しています。

(13)そこで、親に「ぼくにとってはテニス
   が自分を表げんできるスポーツだから、
   水泳でなくテニスをやらせてほしい。」

   と言ってテニスを選んだんだ。
  (「松岡修造さんからおうえんメッセージ」
   『みどりのなかま』391,学研エデュケー
   ショナル,2017)(p.62)

(14)この学習者は、一般的によくあること
   として、「テニスを選んだ」のは親だ
   と思った。

   しかし、「親」に「に」が付いている
   ことに気づき、

   「テニスを選んだ」のは「親」ではなく、
   この文章を書いている人(松岡修造)
   だろうと推測した。(p.62)

第二言語習得において、一般に学習者は名詞
や動詞といった自立語に比べ、

助詞や動詞の活用語尾といった機能語には
あまり注意を払わないと言われています。

しかしながら、とりわけ格助詞に注目する
ことは、文の内容理解に大きく貢献します。

なぜなら、格助詞は文の骨格に関わる品詞だ
からです。

この点について、野田(2022)も

「日本語学習者はわからない部分があっても、
 助詞や助動詞、動詞・形容詞の活用形が
 表す意味を知っていれば、

 語句と語句の関係や文全体の大まかな意味
 を適切に推測できることがある。」
                (p.62)

と述べています。

従って、意味が分からない文に対して、機能
語に注目させながら推測するよう促すのは、
有効な指導の1つと言えます。

参考文献

野田尚史(2022)「日本語教育学とは何か(5)日本
   語学習者の読解における推測」日本大学
   国文学会『The journal of Japanese
   language and literature」172 pp.64-61

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いかがでしょうか。

この学習者、なかなか言語感覚が鋭いですね。

さすが野田先生の教え子さんです(^_^)

もし、ご自身の学習者が文章理解に躓いて
いるとしたら、

もしかしたら、格助詞を見落としているか、
あるいは、格助詞ひいては文の構造について
誤解しているのかもしれません。

「キムさん、ここに『に』があるよね。
 ということは、どういうこと?」

そんなちょっとしたヒント(=スキャフォー
ルディング)を与えれば、

その学習者の誤解が解け、一気に理解が進む
かもしれません。

その場に立ち会えることこそ、教師の醍醐味、
教師冥利に尽きると言えます(^_^)


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