「立てる」か「立たせる」か、それが問題だ。

前回の続き。

 

動詞の自他の学習で、

1)看板が立つ。
2)(私が)看板を立てる。

を勉強した後、とある学習者が、

3)子どもが立つ。

という例文を持ってきて、「私が子どもに
立つという行為をさせる」という意味の文を
作ろうとして、

4)私が子どもを立てる。

という文を作った。

 

そこで、

「この文は間違いです。」

と指摘すると、すかさず学習者が、

「先生、いつ他動詞を使って、いつ動詞の使役の
形を使いますか。

どっちも、『私』が相手に働きかけるという
意味ですよね。」

とあなたに質問。

さあ、どう答える?

 

と、ここまでが前回の内容。

 

答え、出ましたか?

 

「他動詞文と使役文がこんな所で繋がるなんて、
考えてもみなかった。」

そう思った方もいたのではないでしょうか。

 

しかしながら、

考えてみれば、他動詞文も使役文も

「主語が対象に働きかける」

という点では共通の表現。

 

実は、とても似ているんです。

 

こういう場合、まず、「他動詞」と「使役」の
定義をはっきりさせることが大切です。

 

他動詞とは、

「動作の主体が他の対象に働きかける動作を表す
動詞。」

 

一方、使役とは、

「能動文に含まれていない人や物が、能動文の
事態の成立に影響を与える主体として表現する
もの。」

 

簡単に言うと、

他動詞文は主体が直接対象に働きかけて事態を成立
させますが、

使役は、主体が対象に働きかけるものの、実際の行
動や変化は対象の行動や変化によって成立する。

 

ここが大きな違いなんですね。

 

そこで、改めて問題の例文を見てみると、

5)看板が立つ。→(私が)看板を立てる。
6)子どもが立つ。→(私が)子どもを立たせる。

 

5)、6)のそれぞれの文で、実際に「立つ」と
いう動作をする(させる)のは誰でしょうか?

 

5)は、いくら「私」が命令しても「看板」が
自分で「立つ」ことはできません。

 

「私」が実際に「看板」を持って「立つ」ように
しなければならないわけです。

 

このように、主体が直接対象に手をかける場合は
他動詞が使われる。

 

一方、6)は、「私」の命令によって「子ども」
は、自らの力で「立ち」ます。

 

「私」が命令しても、実際に「立つ」のはあくま
でも子ども。

 

こういう場合は、使役の表現が使われるのです。

 

もし、「私が子どもを立てる。」というと、
まるで杭のような「子ども」を地面にグサッと
刺すような感じに聞こえませんか(笑)

 

では、両者の決定的な違いは何か。

 

それは、他動文、使役文の対象が有情名詞か
無情名詞か。

 

「看板」は、意志を持たないので無情名詞。
「子ども」は、意志を持つので有情名詞。

 

無情名詞は、自ら動く(意志を持つ)ことが
できないので、

主体が直接手をかけて事態を成立させる
他動詞「立てる」を使う。

 

有情名詞は、自ら動く(意志を持つ)ことが
できるので、

主体の働きかけで自ら動くことで事態の成立を
表す使役「立たせる」を使うのです。

 

これが、自動詞文を他動詞文にするか使役文に
するかの基本的なルールです。

 

学習者には、もう少しわかりやすく、

「元の文(能動文)のときの主語が生き物なら
使役文に、生き物じゃないなら他動詞文に
するといいでしょう。」

と教えてあげればいいでしょう。

 

そしたら、その学習者、すかさず、

「先生、ということは、

・田中君が穴に落ちる。

は、

・山田君が田中君を穴に落ちさせる。

ですね。

よくわかりました。
ありがとうございました!」

 

えーーーーーーーーーーーー!!!!!

いやいやいや。

 

その時は、

「山田君が田中君を穴に落ちさせる。」

じゃなくて、

「山田君が田中君を穴に落とす。」

 

でも、対象は「田中君」。
立派な有情名詞。

 

これは困った(>_<)

 

さて、あなたならどう説明しますか。


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