『日本語教育の参照枠』を読む。(その3)

前回に引き続き

『日本語教育の参照枠報告』
 https://qr.paps.jp/ShqFB

今回は、その3回目。

今日は、

「3 「日本語教育の参照枠」が目指すもの」

から

「「日本語教育の参照枠」の枠組みとして
 CEFRを参考とすることについて」

までです。

こちらも、とても重要な部分ですので
しっかり読み込んでいきましょう。

以下。

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3 「日本語教育の参照枠」が目指すもの

(1)「日本語教育の参照枠」が目指すもの

○ 「日本語教育の参照枠」は、国内外にお
 ける日本語教育の質の向上を通して、共生
 社会の実現に寄与することを目的とする。

○ 「日本語教育の参照枠」は、言語・文化
 の相互理解・相互尊重を前提とし、

 日本語教育に関わる全ての人が日本語の学
 習・教育などに関して参照する枠組みであ
 り、

 学習・教育の内容や方法の画一化を図るも
 のではない。

○ 世界中で国境を越えた人の移動が進み、
 複数の言語を使用し、複数の社会に生き
 る人々が増えている。

 また、学習方法も多様性を増している。

 このような状況において、日本語学習者が
 自らの日本語の習熟度を客観的に把握した
 り、

 具体的な学習目標を立て自律学習を進めた
 りするための指標を提示することは有効で
 ある。

○ 日本語教育に関わる全ての関係者が「日
 本語教育の参照枠」を参照することにより、

 共通の枠組み、記述レベル、指標を持ち、
 互いの知見を共有し連携することは日本語
 教育の質の向上につながる。

○ 多文化共生社会に向けて、外国人と接す
 る一般の日本人にも「日本語教育の参照
 枠」の内容を分かりやすく示し、

 外国人の日本語能力について理解を深める
 ことも重要である。

以下の三つを「日本語教育の参照枠」におけ
る言語教育観の柱として考えることとする。

1 日本語学習者を社会的存在として捉える

学習者は、単に「言語を学ぶ者」ではなく、
「新たに学んだ言語を用いて社会に参加し、

より良い人生を歩もうとする社会的存在」
である。

言語の習得は、それ自体が目的ではなく、

より深く社会に参加し、より多くの場面で
自分らしさを発揮できるようになるための
手段である。

2 言語を使って「できること」に注目する

社会の中で日本語学習者が自身の言語能力を
より生かしていくために、

言語知識を持っていることよりも、その知識
を使って何ができるかに注目する。

3 多様な日本語使用を尊重する

各人にとって必要な言語活動が何か、その活
動をどの程度遂行できることが必要か等、目
標設定を個別に行うことを重視する。

母語話者が使用する日本語の在り方を必ずし
も学ぶべき規範、最終的なゴールとはしない。

「1 日本語学習者を社会的存在として捉える」
とは、どういうことか?

「日本語教育の参照枠」では、学習者を社会
の一員として人々と関係を持ちながら、

日本語を使って様々な課題を解決しようとす
る存在として捉えます。

なぜこのようなことを、言語教育観の柱とし
て示しているのでしょうか。

例えば日本語を教える際にも、ある文法事項
を実際の言語使用の場面などと関係なく教え
る、

全員に同じ漢字・語彙を教えるなど、多くの
場合、

教える側の事情によって、学習者を異なりの
ない均一な存在として捉えてしまうことはな
いでしょうか。

そうではなく、学習者が置かれている様々な
背景や社会的な状況に応じて、

生活の中で必要な表現や話し方、漢字・語彙
を学ぶ、

仕事で求められる技能を優先的に伸ばすと
いったことが大切です。

特に成人の場合は既に持っている知識や経験
を生かして学ぶことができるのです。

このように一人一人異なる状況に応じた学び
を支えるための枠組みとして「日本語教育の
参照枠」は編まれました。

社会と教室を隔てることなく、学習者一人一
人の豊かな多様性を生かし、

日本語を通した学びの場を人と人が出会う社
会そのものとすることによって、共生社会の
実現を目指す。

それが、「日本語学習者を社会的存在として
捉える」という言葉に込められた意味なので
す。

(2)「日本語教育の参照枠」を作成するに
   当たっての方針

〇 「日本語教育の参照枠」の理念を分かりや
 すく示すとともに、作成に当たっては、
 CEFRの実践の成果や課題を踏まえて検討
 することとする。

○ 日本語の参照レベルとして、CEFRを参
 考に、基礎段階の言語使用者のレベルをAと
 し、

 自立した言語使用者のレベルをB、

 熟達した言語使用者のレベルをCとする三段
 階とし、

 それぞれを二分割して全部で6レベルとする。

〇 CEFRでは、コミュニケーション言語活
 動を受容、産出、やり取り、仲介の四つから
 構成されるものとして示し、

 言語活動として、受容的言語活動:「聞くこ
 と」、「読むこと」、産出的言語活動:「話
 すこと(発表)」、「書くこと」、相互行為
 的言語活動:「話すこと(やり取り)」等を
 設定し、

 6レベルにわたって示している。

 「日本語教育の参照枠」においても同様の言
 語活動を設定する。

○ 日本語の特徴である漢字を含む文字につい
 ては、別に取り上げることとし、

 66 ページ「8 漢字を含む文字の扱いについ
 て」に記載する。

○ 同じく日本語の特徴である待遇表現(敬語
 等)については、CEFRの社会言語能力に
 ついての言及と結び付けて扱うこととする。

○ 「日本語教育の参照枠」で扱う日本語とは、
 日本語を母語としない者が第二言語または外
 国語として学ぶ場合の日本語である。

○ 外国につながる子供に対する指導の際に
 「日本語教育の参照枠」を参照する際は、

 子供の言語・文化的背景や発達に配慮し、
 それが適切かどうかを慎重に見極める必要が
 ある(16 ページ「子供に対する日本語指導
 と「日本語教育の参照枠」」参照)。

4 「日本語教育の参照枠」の枠組みとして
 CEFRを参考とすることについて

○ CEFRは欧州評議会によって、20 年以上
 にわたる研究と検証の末に開発され、2001 年
 に公開された。

 現在では 40 もの言語で翻訳されている。

 また、CEFRは言語資格を承認する根拠にも
 なるため、国境や言語の枠を越えて、教育や
 就労の流動性を促進することにも役立っている。

○ CEFRは、言語の枠や国境を越えて、外国
 語の運用能力を同一の基準で測ることができ
 る国際的な枠組みであり、

 学習者、教授する者及び評価者が、外国語の熟
 達度を同一の基準で判断しながら、学び、教え、
 評価できるように開発された。

○ CEFRのレベルはA1、A2、B1、B2、
 C1、C2に分かれており、

 その言語を使って「具体的に何ができるか」と
 いう形で言語能力を表す言語能力記述文を用い
 て分かりやすく示されている。

○ 既に様々な分野でCEFRが指標として使用
 されている。

・ 独立行政法人国際交流基金がCEFRの考え
 方に基づき、日本語教育の方法及び学習成果の
 評価の枠組みである、

 JF日本語教育スタンダードを開発し、主に海
 外における日本語教育において普及・活用され
 ている。

・ 令和元年8月には、法務省告示をもって定め
 る日本語教育機関に対する抹消基準として、

 課程修了者の7割以上が3年連続でCEFRの
 A2相当以上の日本語能力を習得できない場合
 が適用されている。

・ 外国人を雇用する企業が、CEFRを参照し、
 外国人の日本語レベルを示した独自の言語能力
 記述文を作成し、

 評価指標とするなど活用が広がっている。

・ 平成 24 年からNHKの語学番組のレベル表
 記に使用されている。

・ 日本国内の大学と海外の大学との交換留学の
 際の言語能力を示す指標にも活用されている。

・ ヨーロッパだけでなく、中国や韓国などのア
 ジアの国々の言語能力試験においても参照され
 ている。

○ 以上のことから、「日本語教育の参照枠」の
 作成に当たっては、CEFRの実践の成果や
 課題を踏まえて検討することが適当である。

○ CEFR補遺版(Common European Framework
 of Reference for Languages: Learning,teaching,
 assessment. Companion Volume with New
 Descriptors)が 2018 年に公開され、

 2020 年に改定版が公開された。

 CEFR補遺版では言語能力記述文等が追加・
 補完されているが、

 「日本語教育の参照枠」の検討に当たっては、

 CEFRの 2001 年版を主に参考として検討す
 ることにする。
===================

いかがでしょうか。

まずもって押さえるべきは、その目的。

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○ 「日本語教育の参照枠」は、国内外にお
 ける日本語教育の質の向上を通して、共生
 社会の実現に寄与することを目的とする。

====================

さらに、

====================

学習・教育の内容や方法の画一化を図るも
のではない。

====================

私としては、ここはとても気になる部分で、

なぜなら、今後日本語学校に対して、
この参照枠に沿って一定の日本語力を身に
つけさせなければ、

在留許可の結果に響くといったことが言わ
れているからです。

日本語学校にもいろいろあって、

進学目的での留学生にゴリゴリ試験勉強
させるところもあれば、

短期滞在やビジネスパーソン、地元在住の
生活者に対してマイペースで授業を展開す
る学校もあります。

そういった多様性を、本制度はどこまで
許容するのか。

そこはとても重要なポイントになるかと
思います。

そして、大事なのが、

「日本語学習者を社会的存在として捉える」

という点。

また、

「母語話者が使用する日本語の在り方を必ずし
 も学ぶべき規範、最終的なゴールとはしない。」

こちらもしっかり押さえておきたいですね。


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