『日本語教育の参照枠』を読む。(その5)

前回に引き続き

『日本語教育の参照枠報告』
 https://qr.paps.jp/ShqFB

今回は、その5回目。

今日は、

「II 「日本語教育の参照枠」について」

「2 日本語能力観と六つのレベル 」

から

「3 全体的な尺度」

です。

いよいよ本報告書の本丸に入って
いきます。

報告書内の図についてはリンクを貼り
ましたので、こちらも必ずご参照ください。

以下。

===================

2 日本語能力観と六つのレベル

(1)「日本語教育の参照枠」における
   日本語能力観

○ 「日本語教育の参照枠」における日本
 語の熟達度は、基礎段階であるA1から、
 熟達段階であるC2までの六つのレベル、

 さらに、「聞くこと」、「読むこと」、
 「話すこと(やり取り)」、「話すこと
 (発表)」、「書くこと」の五つの言語
 活動別に示すことができる。

○ 「日本語教育の参照枠」では、五つの
 言語活動をバランスよく学んでいくこと
 よりも、

 個人にとって必要なことから学んでいく
 ことを重視する。

○ 例えば、五つの言語活動能力の全てが
 B1であるという「B1レベルの学習
 者」という存在は、

 想定可能であったとしても、実際の日本
 語能力には言語活動によってばらつきが
 あることの方が多い。

○ したがって、「やり取りはB1ではあ
 るが、書くことはA2である」と捉える
 方が現実に即していると言える。

 社会生活において求められる日本語能力
 は、学習者が置かれている状況やライフ
 スタイルによって異なる。

○ 例えば、接客業などの対人サービスに
 携わる者には、読み書き能力よりも口頭
 能力において高い能力が求められる傾向
 がある(図2)。

 また、翻訳業などに携わる者には高い読
 み書き能力が求められる。

 そのような状況に応じて日本語能力を伸
 ばしていくことになる(図3)。

○ 図2、図3は例示である。

 また、就労場面で口頭能力が優先的に必
 要とされるとしても、

 生活者としては読み書き能力が必要とさ
 れる場面がある。

 このように生活の場面ごとに、どのよう
 な能力を優先して学んでいくのかという
 ことについて、

 学習者の目的に応じて言語活動別に考え
 ていく必要がある。

○ 多様な言語的背景を持つ人々と共に暮
 らしていくことが求められる社会におい
 ては、

 日本語学習者一人一人の日本語能力につ
 いて、「できること」に注目することが
 重要であることから、

 「日本語教育の参照枠」では、熟達度を
 言語活動別に捉えていくための指標を示
 している。

図2:口頭能力が高い日本語学習者の日本
   語熟達度(例)
https://qr.paps.jp/H5o9q

図3:読み書き能力が高い日本語学習者の
   日本語熟達度(例)
https://qr.paps.jp/IpSbq

(2)「日本語教育の参照枠」における日
  本語熟達度

○ 図4は、「日本語教育の参照枠」にお
 ける日本語熟達度を示したものである。

 五つの言語活動はコミュニケーション言
 語活動と呼ばれ、

 言語に関する知識や技能であるコミュニ
 ケーション言語能力と補完し合う関係に
 ある。

○ 五つの言語活動は、「理解すること
 (「聞くこと」「読むこと」)」、「話
 すこと(「やり取り」、「発表」)」、
 「書くこと」に整理できる。

○ 図4は、五つの言語活動のうち「話す
 こと(やり取り)」の熟達度が上がって
 いく様子を示したものである。

 初めは自己紹介や基本的な挨拶の表現を
 使うのみであったのが、

 熟達度が上がっていくにつれ、やり取り
 の幅が広がり様々なことができるように
 なっていく。

○ A2、B1、B2については、図4の
 A2.1、A2.2の言語能力記述文の
 ように、

 熟達度は言語活動の種類やカテゴリーに
 よって、一つのレベルを二分割して示さ
 れることがあり、

 一つのレベルの中でも、熟達度をより細
 かく把握することができる。

○ 加えて、実際の言語活動は、聞き返し
 や言い換えなどの方略を駆使して行われ
 る。

 また、話し言葉であれ、書き言葉であれ、
 一まとまりのテクスト(ニュース、講演、
 講義 、新聞、雑誌、メール)を理解した
 り要約したりする際には、

 そのための技能を駆使することになる。

○ 「日本語教育の参照枠」では、日本語
 学習者が社会によりよく参加していくた
 めに、

 実生活において日本語を使ってどのよう
 なことができるかに注目する。

 したがって、日本語学習においては、個
 別の語彙や文法ではなく、日本語学習者
 が実生活において、

 日本語でできるようになりたいと思う言
 語活動についての言語能力記述文(活動
 Can do)を学習目標に設定する。

○ 図4で示す言語能力記述文の間を結ぶ
 矢印のとおり、熟達度は直線的に上昇し
 続けるだけでない。

 例えば、仕事が忙しく日本語を学ぶ時間
 が取れないときには下降する場合もある
 し、

 一定の熟達度に達した後、伸び悩むこと
 もある。

図4:「日本語教育の参照枠」における日
   本語の熟達度、「話すこと(やり取
   り)」の場合

○ 図中の言語能力記述文の翻訳は、CE
 FR日本語版(2014 年追補版)の訳文
 に修正を加えた。
 https://qr.paps.jp/yaBxi

○ 日本語能力の熟達度は、日本語学習者
 の努力だけではなく、

 周囲のサポートによっても左右される場
 合がある。

 図4「A2.2:やり取り」の言語能力
 記述文のように、

 やり取りの相手が発言の内容を繰り返し
 たり、言い換えたり、

 あるいは共通語 13で話すことによって
 できるようになる言語活動もある。

 したがって、言語能力記述文は日本語
 教師と日本語学習者だけではなく、

 日本語教育に関わる全ての人々が参照し、
 日本語学習者の支援に活用していくこと
 も重要である。

3 全体的な尺度

○ 「日本語教育の参照枠」では日本語能
 力の熟達度について、CEFRに掲載さ
 れている「共通参照レベル:全体的な尺
 度」に準じた六つのレベル及び言語能力
 記述文を設定することとする。

 なお、翻訳については、CEFR日本語
 版(2014 年追補版)の訳文を基にし、

 CEFR補遺版 16を参考に一部修正を
 加えた。

https://qr.paps.jp/5N2UK

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いかがでしょうか。

個人的には、今回の部分では気になるのは、

「文化庁はどうやって教育機関の教育の質
 を適正に評価し、質の向上を担保するの
 か。」

という点です。

というのも、一見

「「日本語教育の参照枠」では、五つの
 言語活動をバランスよく学んでいくこと
 よりも、

 個人にとって必要なことから学んでいく
 ことを重視する。」

と、一見学習者に寄り添った評価のように
見えるものの、

極端な話(案外そうでもないかも)

例えば進学目的の日本語学校で学習意欲が
低い学習者が多い場合、

学校側がいくらより高みを目指す指導を
しても、学習者から、

「いや、私はそんなに勉強したくありませ
 ん。行けるところに行ければいいです。
 それよりアルバイトが大事です。」

と言われ、学習者がアルバイトに勤しむ
ような状況になった場合、

文化庁から報告を求められた場合に、
教育機関はどう対処したらいいのか。

また、文化庁はそうした教育機関に対して
どう対処し、評価するのか。

そもそもですが、日本語力の多様性を
認めるのであれば、

結局のところ、学習者が教育機関に対して
満足すれば成立するわけで、

教育の質がいいから学習者が満足するの
ではなく、

学習者が満足する教育が質のいい教育と
考えるのが適切で、

そう考えると、文化庁が間に入る意味って
何なんだろうと考えてしまいます。

この辺りも含め、さらに読み込んでいこうと
思います。


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